すこやか生活
第10巻8号
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肺炎の代表、肺炎球菌
肺炎球菌は、元々ノドや鼻、口の中にひっそりと住み着いている性格のおとなしい細菌です。 ところが、体調の悪いときや高齢者の方が間違ってこの細菌を肺の中に吸い込んでしまうと肺炎を起こします。市中肺炎のおよそ30%を占めます(4ページ参照)。肺炎球菌は肺炎だ
けでなく、中耳炎や副鼻腔炎など、上気道の周囲の炎症の原因菌にもなります。 元々おとなしいせいか、多くの抗生物質が有効で、ペニシリン系(パセトシン、ユナシン)、セフェム系(ロセフィン、メイアクトなど)、キノロン系(クラビッド、ジェニナック)などが治療に使われます。
肺炎球菌ワクチン 数年前から日本でも肺炎球菌ワクチンが肺炎球菌による肺炎の予防として使われています。 肺炎球菌ワクチンは、80種類ある菌の亜種のうち、主な23種類の菌細胞から作られたワクチンです。23種類でおよそ80%の肺炎球菌感染症をカバーしています。肺炎球菌ワクチンは一回の接種で23種類のほとんどの肺炎球菌に対して免疫力ができ、しかもその効果は5年以上継続するため、日本では一生に一度の接種でよいとされています。なお、アメリカなどでは高齢者においては5年ごとの接種が望ましいと推奨されているため、高齢化が進む中、接種回数を今後どうするかが問題になりそうです。 肺炎球菌ワクチンは他の予防注射と比べて局所反応(注射部位のかぶれやはれ)がつよいので、2度目をうつと局所反応がより出やすくなる可能性があります。何事も逃げ腰の厚生労働省が接種回数を一生に一度に限定しているのは、こんなところに理由があるのかもしれません。
まぎらわしいインフルエンザ菌
正確にはヘモフィルス インフルエンザ菌と呼びます。インフルエンザ菌は、名前がインフルエンザとなっていますが、いわゆる流感と呼ばれているインフルエンザを起こすウイルスとは全く異なる"細菌"です。 100年以上前、流感としてインフルエンザが流行した折りに、北里柴三郎が光学顕微鏡でこの菌を発見し、インフルエンザの原因ではないかと疑いこの紛らわしい名をつけました。その後、電子顕微鏡が発明され、流感(インフルエンザ)の原因が細菌ではなくウイルス(インフルエンザウイルス)であることがわかりました。ところが、この菌の方が先に"インフルエンザ"の名前が付いてしまったため、流感の原因ではないのにインフルエンザ菌という名前が残りました。
さて、このインフルエンザ菌は肺炎球菌と同様に普段、常在菌として、口や鼻の中でおとなしく暮らしています。そしていったんカゼを引いたり、インフルエンザにかかった後など気道にトラブルが発生すると暴れて、中耳炎や副鼻腔炎、気管支炎や肺炎、結膜炎を起こします。インフルエンザ菌のうち、b型と呼ばれる毒性の強い株(後述のHib)は、赤ちゃんや幼児に感染すると直接血液に入り敗血症を起こしたり、脳へ広がり髄膜炎の原因になることがあります。髄膜炎は聴力障害やてんかんの原因となる怖い病気です。 インフルエンザ菌も肺炎球菌同様ペニシリン系、セフェム系の抗生物質がよく効きますが、抗生物質に抵抗力を持つ耐性菌もあります。インフルエンザ菌の肺炎治療も同様にこれらの抗
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