虚実を少し深めてみる

1)虚証:虚とは空っぽの状態という意味です。前述のとおり、気力、体力、抵抗力などが空っぽになり、体が異変を起こしている訳なので、これを補わなければなりません。ガンなどの大病をしたり、過労や寝不足、そして過労などで体力がそぎ落とされたときはだれでも虚の状態に成り得ます。体力や栄養、体を形作っている成分などが足らなくなって空っぽになりますので、休養や睡眠、食事と栄養を"補う"ことで改善できる可能性がある状態と言えます。漢方ではこの補う薬を補剤と呼び、補中益気湯などが代表です。中とは胃腸を指し、胃腸を整え補いながら気を増幅させるという意味です。他に、十全大補湯六君子湯などもこの仲間です。これらには、水や塩分を補い体液を増やす働きのある甘草が含まれています。甘草は漢方薬のおよそ7割に含まれており、主成分のグリチルリチンはアルドステロンという副腎皮質ホルモン類似の働きがあり、水分や塩分(NaCl)を体にためカリウム(K)を体外に出す働きがあり、摂りすぎるとNa過剰とK不足に陥ることがあります。また、抗アレルギー作用や抗炎症作用があり、ジンマシンや慢性肝炎の治療でも使われます。グリチルリチン自体がコルチゾールという副腎皮質ホルモンの構造式に似ており、代謝産物のグリチルレチン酸が副腎皮質ホルモンの分解を行っている酵素(11β-HSD)の働きを抑制し、体内のステロイドホルモンの作用を延長させるこ

とがこの作用機序と考えられています。
2)実証:実とは虚と反対で、体の中に何かが充満している状態です。体や精神に何かが充満していて、強い炎症などの病気と闘う反応が起きています。関節が腫れて痛い、お腹がパンパンに張ってつらい、イライラが溜まって爆発しそうなどが実の状態です。病の活発な状態とも言えます。
 体質的に実の人は、図のような感じです。なお、逆三角形とは限らず、内臓脂肪が多くお腹が出ている人も体内に充満しているので含まれます。血液のボリュームも多く、高血圧だったりのぼせやすかったりします。
実証の主な漢方薬
 お腹に溜まった便などを出す下剤の作用のある大黄や
麻黄などがよく含まれます。麻黄の主成分であるエフェドリンは交感神経刺激アミンで、アドレナリンに似た働きがあります。このため、血圧の上昇、動悸、発汗過多、排尿障害、不眠など、交感神経緊張状態で起こる症状が出ることがあります。しかし、鼻水が止まり鼻づまりが取れ、気管支が広がるため、感冒やインフルエンザなど気道の炎症による疾患でよく用いられます。これらを含む主な漢方薬は、防風痛聖散、麻黄湯、桃核承気湯、白虎加人参湯などです。
 これらは、体に充満した物を出すために、また、関節を含め様々な体の炎症を軽減するために用いられます。

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