軽度認知障害(MCI)

 認知症は、脳卒中など特別の場合を除いて、全く正常な人が一足飛びになるわけではありません。少し、衰えてきたかなと思っても、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMMSEなどのテストでは、認知症の範疇に入らないことも多く、異常なしとは言い切れない、なりかけの状態を軽度認知障害と呼んでいます。もう少し正確にいうと、①本人や家族などから認知機能低下の訴えがある。②認知機能は正常とは言えないが、テストなどで診断基準を満たさない。③日常生活はほぼ正常で、わずかに複雑な活動に支障がある程度といった状態です。実際に、高齢者の15~25%が該当するとされ、MCIの状態から、毎年5~15%が真の認知症になると言われています。また、MCIから正常に戻る率も16~40%と高く、この時点で見つけ、何らかの対処をすれば認知症への進行を阻止することも可能かもしれません。
MCIの早期発見には
①認知機能検査を受ける
 少し認知機能が落ちていると感じたり、家族などに言われる場合はHDS-Rなどの、認知機能検査を受け、全く正常なのか、認知症なのか、それとも少し機能低下が見られるだけなのかを確認する必要があります。
②他の病気の有無を調べる
 MRIで脳の構造上の異常が無いか調べたり、パーキンソンなどの神経疾患、うつ病などの精神疾患がないか確認する必要があります。MCIは、これらが無いことが前提です。
③精神・神経に対する薬の服用の有無
 認知機能は薬の作用によって影響を受ける場合があるため、服用中の薬の確認や見直しが必要なこともあります。
MCIから認知症への進行予防や治療
A薬物療法

①抗認知症薬:現在、認知症にはドネペジルなどの抗コリンエステラーゼ薬とメマンチンが保険適用となり使用されています。これらを使うと認知症への進行が防げると考えがちですが、残念ながらどちらも予防効果は確認できていません
②生活習慣病に対する治療薬:糖尿病や高血圧、高コレステロール血症治療薬などが該当します。これらは、脳梗塞などの脳障害の予防効果は期待できますが、残念ながら認知症予防に対する直接効果は期待できません。
B非薬物療法
①認知機能トレーニング
:コンピューターを使った注意訓練課題を3ヶ月行ったところ、エピソードと思い起こす機能が改善し、その効果が半年後も維持できていたという報告があるようで、脳トレやパズルのような頭を使う訓練は効果が期待できそうです。
②運動療法
 「脳の働きが落ちているのに、運動なんかさせてどうする?」という声が聞こえてきそうですが、現時点で最も効果が期待できるのがこの運動療法なのです。有酸素療法、ウェイトトレーニング、様々な運動の組み合わせなどいろいろ試行されていますが、単に毎日ウォーキングするだけでも、記憶機能が回復したとの研究結果や、様々な運動の組み合わせで論理的機能が改善し全般的な認知機能が維持でき、脳全体の皮質の萎縮を改善させたという報告などもあり、侮れません。アメリカ神経病学会のMCIガイドラインでは週2回の運動が進められています。
 これらのことから、
MCIになっている方、まだなっていない方も歳をとったからと家に引きこもらず、外へでて少しでも体を動かすことが脳の健康にも有効です。

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