呼吸器系の後遺症
最もよく見られるのが、①肺ガンの手術時に肺の一部が切除され、血液の酸素と二酸化炭素の交換を行っている肺胞の総量が減る場合と、②若い頃の結核治療として、胸郭形成術を受け、片肺がつぶれていたり、結核の影響で胸水が溜まり、肺が胸壁にくっついていたり、肺線維症の様になっている場合です。 肺の手術では、肺の一部を切り取ることで呼吸能力の一部がそがれるだけでなく、肋骨や呼吸を行う筋肉も障害を受け、動きが悪くなるため、術後に呼吸練習とも言えるリハビリをする必要に迫られます。呼吸能力は、肺の容量だけでなく、横隔膜や肋間筋という筋肉の動きにも左右されます。これらの筋肉を動かすリハビリを行ない、より多くの空気を吸い込むことができれば、肺の一部を失っ
てもある程度補うことが可能です。呼吸のリハビリに使う、呼吸機能測定装置を簡単にしたような呼吸訓練器(インセンティブスパイロメトリー)も市販されています。 結核の後遺症は癒着があったり、肺組織が硬くなっている場合が多く、呼吸訓練はあまり効果的ではありません。その他、肺線維症などの炎症性の病気の進んだ病状の場合も同様です。呼吸機能を他の臓器で補うことはできませんが、心臓が頑張れば肺が取り入れた少ない空気を繰り返し全身に運ぶため、何とか補えることがあります。しかし働きすぎると心不全になるため、補助的な道具、つまり酸素濃縮装置などで、高濃度の酸素を吸い、カバーします。自宅で酸素を吸う、在宅酸素療法です。
胃・腸手術の後遺症
胃腸の後遺症は主に手術の影響で、胃や大腸の機能を失った場合です。1)胃切除後の後遺症ダンピング症候群 胃はタンパク分解酵素や胃酸を分泌し、食物の消化を助けます。また、食べたものをいったん胃に溜めて、少しずつ腸へ送る一時的な貯蔵庫の働きもあります。胃ガンや胃・十二指腸潰瘍などで胃を切除するとこれらの機能を失います。加えて、手術で胃腸を動かす迷走神経(副交感神経)を傷つけると、胃腸のぜん動運動が低下し、便秘やお腹の膨満感を起こすこともあります。胃を全て切り取り、食道と腸をつなげると、食事のたびに消化不良の食物が直接大量に十二指腸へ入るので、腸が急に動き始め、ゴロゴロとしたお腹の痛みを感じます。また、少しずつでなく、急に栄養価の高い食物が入ると、腸からブドウ糖が一気に吸収されて、血糖値が上がります。この一時的な高血糖に対して膵臓からイン
スリンが分泌され、食後しばらくして血糖値がガクンと下がり、冷や汗や意識がもうろうとする低血糖を起こすことがあります。胃切除後逆流性食道炎 食道と胃の接合部が緩み、胃液が食道へ逆流し、食道粘膜がただれ、胸焼けや胸痛の症状が出るのが一般的な逆流性食道炎です。この場合の胃液の中の腐食性の成分は、胃酸(塩酸)やタンパク分解酵素のペプシンです。胃を切除すると胃酸を分泌する細胞が無いため、胃由来の腐食性成分はありませんが、逆に膵液や胆汁を含む十二指腸液が逆流します。この中にはタンパク分解酵素のトリプシンや、デンプンを分解するアミラーゼ、脂肪を分解するリパーゼが含まれます。また、腸液や膵液はアルカリ性であるため、それ自体がタンパク質を溶かします。このため、膵液を含む十二指腸液が逆流すると、一般の逆流性食道炎の治療の効かない食道炎となります。
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