睡眠薬と安定剤(抗不安剤)の基本

 いわゆる睡眠薬として使われる薬剤には、①ベンゾジアゼピン(BZD)系および、その類似薬、②抗ヒスタミン剤、③メラトニン受容体作動薬、④抗うつ剤、向精神病薬などがあります。このうち脳・神経細胞の持つBZD系の受容体に働く①のタイプの薬が睡眠薬や安定剤として使われる薬のほとんどです。
 ①のBZD系の物質はジアゼパムという物質が代表です。このジアゼパム(商品名はセルシンやホリゾン)は、脳の精神活動を司る大脳辺縁系などに作用し、その活動を抑制することで、眠りに着いたり心に平安をもたらします。このジアゼパムは人の脳にもごくわずかに存在し、睡眠や精神の安定に関与すると考えられていますが、実は詳しくわかっていません。この物質が脳細胞の細胞膜に結合する場所がBZD受容体です。ジアゼパムと似た構造を持ち、この受容体にジアゼパムと同様に結合するのがBZD系の薬です。類似薬は、BZD受容体に結合するが、構造がBZDの似ていない薬剤です。
 BZD系やその類似薬はそれぞれ、作用時間、強さ、抗不安作用や誘眠作用のバランスなどで使い分けられています。(表参照)例えば、入眠障害の場合は、効果(作用時間)の短い薬、中途覚醒のある場合は作用時間が中くらいのもの、そして早朝覚醒する場合は、作用時間の長いものが処方されます。また、日中突然不安に襲われるパニック障

害の予防には、抗不安作用が強く比較的効果の長めなものが用いられ、不安に襲われたときすぐ症状を取りたい時などは、即効性が期待でき作用時間が短いものが適しています。
 BZD系はこのように様々用途に使われますが、薬への依存や筋肉の弛緩作用などの問題があります。依存は薬を飲まないと眠れない気がして止められなかったり、日中薬を飲まないと不安が取れないような症状です。筋肉の弛緩は体に力が入らない状態です。眠り薬を飲み数時間後に目が覚めてトイレに行こうと立ち上がったとき、力が入らず転んでしまうのが典型です。また、薬の作用時間が長すぎた場合、目覚めたときに眠さが残る、持ち越し効果が見られることもあります。
 ②の抗
ヒスタミン剤はアレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎で使われます。このタイプの薬は眠気を催すため、睡眠薬として市販もされており、"ドリエル"などが有名です。漢方の抑肝散加陳皮半夏などを含む薬も市販されています。
 ③の
メラトニンは、概日リズムと呼ばれる体内時計の時間調整をしている松果体から分泌されるホルモンです。「ロゼレム」のように医療用として処方されるものもあります。リズムは作れますが睡眠薬としては弱いのが特徴です。
  抗うつ剤や向精神病薬は特殊なので、ここでは触れません。(3ページに続く)






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