鎌倉市大船 山口内科 すこやか生活第21巻4号

様々なタン(痰)

 タン(喀痰)とは、一般に喉頭より下の気管、気管支、肺など下気道由来の過剰な分泌物をツバなどとともに口から吐き出すものです。元々、少量の分泌物は下気道からノド(咽頭、喉頭)へ上がって来て、無意識のうちに食道、胃へと飲み込まれています。この気がつかない分泌の量は1日あたり、10ml100mlです。分泌物には、気管支上皮の杯細胞から分泌される、ネバネバ(ゲル)したムチンと呼ばれる糖を多く含む糖タンパクの他、気道上皮を被い粘膜の湿り気を保ちながら異物を浮かせノドへ送るためのサラサラした液体(ゾル)の気道液があります。ゾル状やゲル状の分泌物はノドまで上がってくるので過剰な分泌物は呼吸の邪魔をするため、口からはき出さざるを得ず、これをタンと呼びます。
次はタンの分類です。
@泡沫状タン:名前はアワだったタンという意味で、シャボン玉のようなアワを多く含んだものです。アワの中身は空気で、サラサラした水にシャボンを作る界面活性剤である肺胞液の成分も含まれ、少し血液が混ざったピンク色をしています。うっ血性心不全で肺胞や末梢気管支に水が溜まり、吸い込んだ空気と水や肺胞液が混ざって出てきたものです。
A漿液性タン:無色透明で比較的粘りけが少なくサラサラとしています。気管支毛細血管などから水分だけ漏れ出てきたもので、気管支ぜん息などで出るタンです。一部の腺ガンで出る場合もあります。
B粘液性タン:半透明でネバ

ネバしたタンで、気管支腺・上皮の杯細胞からの粘液分泌が増えたときに出てきます。急性気管支炎、慢性気管支炎やこじれたぜん息などで見られます。
C膿性タン:黄色や緑色をした粘り気の強いタンで、ノドや気管にへばり付きなかなか出てきません。細胞成分や、肺炎球菌、インフルエンザ菌などの細菌が気道分泌物に混ざっています。細菌性肺炎や急性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支拡張症の増悪期などで、見られます。
D血性タン:文字通り、気管支や肺からの出血が混ざったタンです。昔なら結核ですが、現在なら、肺ガンや、気管支拡張症、非結核性抗酸菌症などで咳が止まらず気管支が傷ついてしまった場合のほか、多くの疾患の可能性が考えられます。近年は脳梗塞の予防や、虚血性心疾患などで血液の凝固を阻害する薬を飲んでいる方が増えました。そのような方では咳をして気道の細い血管が切れ、血が止まりにくくなっているため血タンが出てきます。
 このようにタンの性状で様々な疾患があぶり出されるため、
タンが出た場合、色や性状を医師に報告することが大切です。
 また3ページのコラムにありますが、後鼻漏の場合はAなら花粉症などのアレルギー性鼻炎、B鼻炎のこじれかけ、Cなら副鼻腔炎(ちく膿症)、Dなら、鼻血の混じった鼻汁ですので、粘膜の傷や炎症が強い場合、そしてまれにガンも含まれます。

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