すぐ効かないステロイドホルモン

  図1の赤いは、アドレナリンやインスリンなどのステロイド以外の主なホルモンや、ヒスタミンその他の体内の多くの情報伝達物質です。これらは水溶性だったりして、細胞膜を直接通過できず、主に細胞表面のレセプター(伝達物質を受け止める受け口)に接着し細胞内の生理活性を持つタンパク質の3次元構造を変えるなどして、様々な働きを行います。(赤点線)具体例では、アドレナリンが心筋の細胞のレセプターにつくと、心臓の収縮が速く強くなるため動悸を覚えます。心臓が止まってしまったときに、蘇生のためにアドレナリンが静脈注射されますが、即効性を期待してのことです。また、アドレナリンを気管支に吸い込むと、粘膜周囲の平滑筋のレセプターに付着し、平滑筋の収縮を弛め、気管支の内腔を広げ空気が通りやすくなります。薬で言うと、ぜん息発作時のメプチン吸入がこれと類似の反応です。これらは数十秒から数分以内の反応です。高血糖の時に使うインスリンも数十分程度で血糖を下げる働きが起こります。食物アレルギーでじんま疹が出るときも、白血球の一種の好塩基球から放出されるヒスタミンによって、数分から数十分でかゆみ、強い膨疹(赤いふくらみ)が発現します。このように細胞表面のレセプターを介するホルモンや情報伝達物質の働きは迅速性があり、このレセプターを邪魔する薬、例えば、かゆみやアレルギー性

鼻炎で使う抗ヒスタミン剤やカルシウム拮抗剤などの降圧剤なども同様に短時間で効果が発現します。なお、一部、働きの遅い青のルート(後述)もあります。このように、多くの体の生理活動は速やかに起こります。
 図2の緑の
はステロイドホルモンです。脂溶性のステロイドは、同じく脂肪の2重層である細胞膜を簡単に通過します。その後、細胞内のレセプターに結合するとレセプターごと活性化されます。これが、細胞内の核に入り、染色体上のDNAに到達します。そして、新しいタンパク質を作るのに必要なDNA部分(黄色)はRNAに転写(写し換え)され、核外に出ます。そこでRNAを鋳型として、必要なタンパク質が合成されます。(遺伝子発現)合成されたタンパク質は、活性物質として細胞内の反応を惹起し、体に変化を起こします。この一連の流れは時間がかかり、最短でも数時間(8時間程度)はかかるため、とても即効性のある物質とは言えません。
 ステロイドの軟膏を塗ったり、目薬を使うと、かゆみがすぐに止まると勘違いしている方がいますが、軟膏、ぜん息などの吸入ステロイド、点鼻薬だけでなく内服も含めステロイドは全てこの過程を踏みますので、使ってすぐに効果が出ることはありません。ステロイドを使い始めた方は是非とも焦らず治療に取り組んで下さい。ちょっと使って鼻づまりが取れないという方が時々いますが。無効と自己判断して中止せず、決められた用法を守って下さい。 

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