診察室
(日経ビジネス2003年9月15日号118ページ)

「すわ心臓病!」実は食道炎

趣味の庭いじりをしていて胸痛に見舞われたGさん(43歳)。心臓病かとあわてて病院に行くと、「逆流性食道炎ですね」と言われた。初めて耳にする病名だが、いったい逆流性食道炎とは、どんな病気なのだろうか。
山口内科(神奈川県鎌倉市)院長
山口泰

「逆流性食道炎とは、胃液が食道部逆分にまで逆流することで起こる食道の炎症だ。本来、胃と食道のつなぎ目にある噴門部は、食べ物が胃に入る時だけ反射的に開き、普段は食道括約筋という輪状の筋肉が噴門部を締めつけている。そのため、いったん胃に入ったものは食道に逆流しないようになっている。しかし、何らかの原因で食道括約筋が緩むと、食道に酸性の胃液が逆流し、酸に弱い食道の粘膜が炎症を起こしてしまう。これが、逆流性食道炎だ。
急に太ったら要注意
この病気はこれまでは欧米人に多く、日本人には少なかった。しかし、食生活の欧米化や肥満の増加、高齢化などにより患者数が増えつつある。胃炎などの原因とされるピロリ菌の除菌も、逆流性食道炎の増加の原因と言われている。ピロリ菌の除菌により胃酸分泌が高まり、逆流を起こした時に炎症が起こりやすくなるからだ。男性の場合、30代から50代の働き盛りに多い。この時期急激に太るのが大きな原因と見られている。肥満により腹部の脂肪で胃が押され、チューブを絞ると出てくるマョネーズのように、胃液が逆流しやすくなるのだ。女性では60歳以降で増えるのが特徴だ。女性の場合、加齢による括約筋の衰えが主な原因だ。主な症状は、げっぷや胸焼け、口の中が苦くなるといったいわゆる"胃が悪いのかな"と感じるもの。症状が悪化すると、潰瘍を繰り返すために食道の下部が狭くなり、食べ物が通りにくくなることもある。一方、食道は

ちょうど心臓の裏当たりに位置するため、食道の不快感や痛みを、食道の痛みではなく胸の痛みだと勘違いする人も少なくない。実際、胸痛のために心臓の病気を疑い、カテーテル検査など様々な検査を行って心疾患治療の薬を飲んでも良くならなかった人が、実は逆流性食道炎だったというケースもある。また、しゃがんだり座ったりという腹部を庄追する姿勢や、きついベルトやガードルなどによる圧迫も、胃が押されて胃液が逆流しやすくなる。このため、草むしりなどでしやがんだ前傾姿勢を取ると、胸の痛みを訴える人が出てくる。
胃酸の分泌を抑える薬を内服
この病気は主に胃酸が原因だ。だから、胃酸の分泌を抑えるPPI(プロトンポンプ阻害剤)という薬を飲むことで多くの場合は改善する。生活習慣の改善も大切だ。前述のように肥満は厳禁。太り過ぎないことを心がけてほしい。過食も胃が膨れて食道括約筋を緩みやすくするので腹八分目がいい。また、肉など脂肪が多い食べ物や、イカやタコなど消化が悪い魚介類は、胃酸の分泌量を高め逆流が起こりやすい。控えた方がいいだろう。このほか、食後すぐに横になると胃液が逆流しやすいため、寝る前の食事は避けたい。パソコンなどで座り仕事が多い場合には、長時間前かがみの姿勢を続けないようにしてほしい。
(談話まとめ:武因京子=医療ジャーナリスト)